契約書は婚姻届
云い澱んでいる朋香に、尚一郎はなぜか楽しそうに、ふふっと笑った。

「なんだい?
朋香からのおねだりなんて初めてだからね。
なんでも聞いてあげるよ」

うっとりと目を細めた尚一郎が、くるくると朋香の毛先を弄ぶ。
心を落ち着けるように一度小さく深呼吸をすると、朋香は口を開いた。

「ひとりで外出したいです。
家の様子も見に行きたいですし、たまにはひとりでショッピングなんか行きたいです。
それで、あの……」

金の無心をするようで云いづらい。
契約婚とはいえ一応夫婦で、尚一郎に養われている立場としては、おかしくないことなのだが。

「すっかり失念していたよ!
そうだよね、家のことは気になるよね」

大げさに驚く尚一郎に、思わず身体がびくっと震えた。

「朋香専用の車を買おう。
あと、運転手と……そうだな、秘書、この場合は執事か?
僕がいない時間に朋香の世話を任せられる人間を雇わなくちゃね」
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