契約書は婚姻届
自分でもないわー、とは思うが、上目使いでわざとらしく目をうるうるさせ、胸元に拳に握った両手を揃えて見つめると、尚一郎は右手で口元を隠してふぃっと目を逸らした。

……もしかして、効いてる?
なら、もう一押し。

「……ダメ、なら仕方ないですね」

ふぅっ、小さく息を吐いて悲しそうに目を伏せてみせた……瞬間。

「朋香!」

「ぐえっ」

いきなり、尚一郎から内蔵が出るんじゃないかという勢いで抱きしめられた。

「ダメじゃないよ!
そうだよね、いままでとまるっきり違う生活だから、なかなか慣れないよね。
たまには息抜きしたいよね。
僕もここで暮らし始めた頃は同じだったらわかるよ。
気づかなくてごめんね」

「あの、えっと」
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