契約書は婚姻届
「ま、まあ、朋香が気に入ったんなら」

尚一郎が視線をすいっと逸らして目を伏せる。

……よし!

心の中でガッツポーズ。

前回で学習した、小悪魔的に攻めると、簡単に尚一郎が落ちること。


 
週末、尚一郎が休みの土曜日に、ディーラーの人間が試乗車を持ってやってきた。

買い物は基本、“お店に行くもの”ではなく、“お店からやってくるもの”という尚一郎の常識は理解したが、いまだに慣れない。

「……朋香?」

自己紹介もしてないのに営業の男から名前を呼ばれ、朋香が怪訝そうに視線を向ける、が。

「……雪也」

営業の男は朋香が大学生時代に付き合っていた、元彼だった。
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