契約書は婚姻届
さらには祖父母はいけ好かない人間だ。

そして尚一郎からどうしてこんなに束縛されるほど、溺愛されているのか理解できない。

「俺なら朋香を苦労させたりしない。
押部社長ほどじゃないが、普通よりは裕福な暮らしだって約束できる。
……俺と、やり直さないか」

真剣に見つめる雪也の瞳に、ごくりとのどが鳴った。
テーブルの上に手を滑らせ、指先に当たったグラスを掴んで渇いたのどに、炭酸の抜けたぬるいコーラを流し込む。

「……返事は出来ない。
わかるでしょ」

精一杯絞り出した声は震えていて、心が揺れていることは隠しきれなかった。

「でもそれって、まだ俺に可能性はあるってことだよな。
真剣に検討してくれよ」

傾きながら近付いてくる雪也の顔を間抜けにもじっと見ていた。

ちゅっ、ふれた唇に目を閉じる。
唇をこじ開けられ、自然に雪也を迎え入れていた。
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