契約書は婚姻届
確実に朋香の中では雪也とは終わっていた。
だから、キスしてもなにも感じなかった。

「どーしよー」

ぐるぐる悩んでいる内に時間はたっていく。
そのうち、一階でロッテがワンワン鳴いている声が響いてきて、尚一郎が帰ってきたことを知らせた。
のろのろとベッドから起きあがり、一階に降りる。

「ただいま、朋香」

「……おかえりなさい」

ちゅっ、いつも通りキスをすると、尚一郎は心配そうに朋香の顔を見た。

「なにかあったのかい?
元気がないようだけど」

「なんでもないですよ」

「そう?」

慌てて笑って誤魔化すと、尚一郎が小さくふふっと笑った気がした。

夕食の最中も後ろめたさから、なんとなく目を合わせられなかった。
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