契約書は婚姻届
終わって、いつものようにリビングで、膝の上に載せられて座る。

「そういえばこのあいだ、義実家に食洗機を贈ったんだ。
家事が楽になればいいと思ってね。
朋香はもう見たんだろう?
どうだった?」

「あっ、えっと」

云える訳ない、実家に帰ったことがないから知らないなど。

「どうしたんだい?
もしかして、サイズが合わなかったかい?
……なんてね」

頬を撫でた尚一郎の目が、すーっと細くなった。
唇は薄く笑っているのに、レンズの奥の目は少しも笑ってない。
自分に向けられる、ふれると切れそうなほど鋭利な視線に、背筋にぞくりと冷たいものが走った。

「知らないと思ってるのかい、朋香が一回も実家に帰ってないこと」

くるくると尚一郎の指先が朋香の毛先を弄ぶ。
それはいつもの可愛がるものと違って、まるで――どうやってなぶろうか、そう考えているかのようだった。
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