契約書は婚姻届
「今日も出かけていたようだけど、どこに行ってなにをしていたんだい?」

じっと尚一郎に見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように、視線を逸らせない。
じわじわと冷たい汗が滲んでくる。
喉はからからに渇き、ごくりと音を立ててつばを飲み込んだ。

「カラオケに行ってました」

「確かに、カラオケには行ったようだね。
GPSの場所はそこだった。
……でも、ひとりじゃないだろう?」

硝子玉のように、感情の見えない尚一郎の目が怖かった。
愉しそうにうっすらと笑っているのも。
静かに冷気を漂わせる尚一郎に、知らず知らず身体が震える。

「……ひとり、でした」

精一杯虚勢を張って、雪也といたことは隠す。

……けれど。

「……嘘つき」

耳元で囁かれた冷たい声に、一瞬で心臓が凍り付いて止まった。
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