契約書は婚姻届
たまにゴルフやなんかに誘われ、お義父さん、お義父さんと本当の父親のように慕う尚一郎を、明夫もいまでは本当の息子のように可愛がっているのは知っている。

明夫だけじゃない。

あんなに反発していた洋太ですら最近は、尚にぃなどと呼んで兄のように慕っているくらいだ。

「わかってるよ、それくらい。
でも尚一郎さん、私と結婚したんだから関係ない、って云ってくれなかった……」

俯いて見える膝の上に、水滴がぽたぽた落ちてくる。

過去に婚約者や恋人が何人いようと関係ない。
ただ、尚一郎に、いまは自分だけだときっぱり云って欲しかった。
そうすれば、自分の立場が揺らぐことはなかったのだ。

「それに、すぐ追ってきてくれなかった。
私の心配してくれたのはロッテだけ」

「だからこうやって迎えに」

「私は侑岐さんなんて放って、すぐに追いかけてきて欲しかったんです!」
< 220 / 541 >

この作品をシェア

pagetop