契約書は婚姻届
泣く朋香に尚一郎はおろおろとしている。
ことの成り行きを見守っていた洋太は、つまらない夫婦喧嘩と判断したようで、さっさと自分の部屋に帰ってしまった。

「尚一郎君。
今日はとりあえず、帰ってくれないか」

「お騒がせして申し訳ありませんでした。
……帰ろう、朋香」

深々とあたまを下げ、朋香の手を取った尚一郎だったが、次の瞬間、固まってしまう。

「帰るのは君ひとりでだ」
 
「え?」

尚一郎も朋香も、思わずまじまじと明夫の顔を見ていた。

「確かに、朋香も子供っぽいヤキモチを妬いているんだと思う。
けれど、尚一郎君は朋香の立場をよく考えたのか?」

「それは……」

云いかけて、尚一郎はなにかに気付いたのか、はっとした顔をした。
明夫が静かに頷くとさっきまでとは違い、引き締まった表情で頷き返す。
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