契約書は婚姻届
「私のところで止めたからよかったものの。
当主のところに渡っていたらどうなっていたか」

「大喜びで私を、廃嫡にしていたでしょうね」

冷たく笑い返した尚一郎だが、ただの負け惜しみにしか聞こえないのは気のせいだろうか。

「それが困るというのだ。
この問題は家族間だけのものじゃない。
オシベグループ全体に関わるものだ。
……わかるだろう?」

「……はい」

すっかり俯いてしまった尚一郎に、胸が苦しくなった。

……私のせいで、尚一郎さんを苦しませてる。

自分のためだったら家を捨てる、そう云ってくれたのは嬉しかった。

けれど。

……問題はそんなに簡単なことではなかったのだ。

「この書類は私が預かっておく。
ああ、侑岐さんとの婚約破棄についてはきちんと話を通しておくから」
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