契約書は婚姻届
「……よろしくお願いします」

深々とあたまを下げた尚一郎に合わせて、朋香もあたまを下げる。

……しかし、意外、だった。

婚約破棄も認めないと云うのかと思っていたから。

「話はこれで終わりだ。
昼食を一緒に食べて行きなさい」

「いえ、これで失礼させていただきます」

「……そうか」

一瞬、尚恭が淋しそうな表情を見せた気がしたのは気のせいだろうか。

「では、これで」

あたまを下げて部屋を出ていこうとする尚一郎に、慌ててあたまを下げて続く。

来たときと同じ廊下を進み、正面玄関から出ると、すでに高橋が車を回してあった。

車が走り出すと、ちらちらと尚一郎の顔を窺ってしまう。
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