契約書は婚姻届
「噂、なんだろ。
ただの」

「いや、それがあながち、嘘とは云い切れなくて……」

西井が聞いてきた話によると、ほかの会社で若園と同じようなネジがより安価で製造できるようになり、オシベはそちらに乗り換えるというのだ。

「同じようなネジっていったって、あれはうちにしかない技術なんだぞ」

椅子に座り直し、両肘をついて組んだ手に額をつけた明夫から、はぁーっ、大きなため息が落ちる。

若園製作所はそれこそ、社員は百人に満たない小さな町工場だが、ネジを作る技術だけはどこにも負けないと自負している。
現に作ったネジはロケットにだって使われている。

「そうなんですけど。
俺も実物見たわけじゃないですし」

不服そうな西井だが、確かにオシベが契約を打ち切るなどという噂を聞けば冷静ではいられないだろう。

「とにかく。
オシベに確認してみる。
朋香、川澄部長にアポイント取ってくれ」
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