契約書は婚姻届
「ああ、尚一郎。
おまえ、来週からしばらく、フランスに行ってもらうから」

リビングに移動移動してのコーヒータイム。
カチャリ、手にしていたカップをソーサーに戻すと、尚恭はにっこりと笑った。

「急、ですね」

尚一郎もカップをソーサーに戻すと、姿勢を正す。

「ヨーロッパ本社の経営不振はおまえの耳にも届いているだろう?
立て直すまでは戻ってくるなとのCEOからのお達しだ」

「それが、このあいだの制裁ですか……」

……はぁーっ、尚一郎の口から深いため息が落ちる。

立て直すまでとはどれくらいかかるのだろう?
数日とかいう単位ではないのはわかるが、まさか年単位?

「大変だったんだぞ?
当主はすぐに感情的になって、云いたい放題だからな。
その程度に落ち着いたことに感謝しなさい」

「いっそ、勘当にでもしてくれた方が、清々したんですけどね……」
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