契約書は婚姻届
……はぁーっ、再び落ちるため息に、思わず尚一郎の手を掴んでいた。
重なった手は尚一郎の方からも握り返してくる。
見上げると視線のあった尚一郎が弱々しく笑って、胸がずきんと痛んだ。

「それから。
おまえがフランスに行っているあいだ、朋香さんは本邸預かりになる」

「なんですか、それは!」

勢いよく立ち上がった尚一郎だが、すぐに我に返ったかのように座り直した。

……本邸預かり、ってどういうことなんだろう?

不安で不安で、思わず尚一郎の顔を窺ってしまう。

「本邸で、押部の嫁にふさわしくなるように再教育するそうだ」

「そんなこと許しませんよ、私は」

「……この結果如何によっては、朋香さんを押部の嫁として正式に認めるそうだが?」

「……っ」
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