契約書は婚姻届
「はい」

まさかこれがあんなことに発展しようとは、この時点で誰も想像してなかった。


 
朋香が父親の工場である、若園製作所で働き始めたのは致し方ない事情からだった。
つい半年ほど前、大学を卒業して四年勤めた会社を辞めたから。

別に会社に不満があったわけじゃない。
いまどきブラック企業でもなく、残業は程々、休日出勤も滅多にない。
給料もまあ不満がない程度には出ていたし、ボーナスだってあった。

会社自体には不満はなかったが、同じ会社で二つ年上の彼氏、吉田亮平が歓迎会の翌日、新入社員の淡島桃子と一緒に出社してきた。
亮平は前日と同じスーツにネクタイで、一目でなにがあったのか察しがつく。

「誤解だ」

終業後、誤解を解きたいとなぜか三人できたコーヒーショップ。
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