契約書は婚姻届
「別に、認めたわけじゃないからな。
姉ちゃんを不幸にしたらあいつ、容赦なく殴りに行く。
じゃ、元気でな」

「うん、ありがとう。
洋太も元気でね。
お父さんをよろしく」

最後まで顔は見せなかったが、洋太の気持ちが痛いほど朋香には嬉しかった。


 
尚一郎につれてこられた料亭、始終嬉しそうににこにこと尚一郎は笑っているが、明夫はせわしなく額の汗を拭いていた。
朋香はといえば、左手が妙に重い気がして落ち着かない。

乞われるがままに朋香の幼い頃の話をする明夫は、スカートをパンツに挟んだまま、丸見えで砂遊びをしていたことなど話して、朋香は顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした。

 
タクシーで帰る明夫を見送り、尚一郎の車に乗る。

並んで後部座席に座るとそっと手を握られたが振り払った。

そんな朋香に尚一郎は怒るどころか、おかしそうにくつくつと笑っている。
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