契約書は婚姻届
しばらく走って森のようなところを抜けると、屋敷に着いた。
あとで、森からが尚一郎の屋敷の敷地だと知って目眩がした。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

屋敷に入ると初老の女性に出迎えられた。

「今日からここで暮らす、僕のお嫁さんの朋香。
朋香、この屋敷の一切を取り仕切ってくれてる野々村」

「野々村でございます。
お見知り置きを、奥様」

「あっ、若園朋香、です。
よろしくお願いします」

じろりと野々村に見られ、あまりに大きな屋敷に周囲をきょろきょろと見渡していたのを知られた気がして、朋香は身が縮む思いがした。

「頼んでいた部屋の準備はできてる?」

「はい、仰せのままに」

「ありがとう。
……朋香、おいで」
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