契約書は婚姻届
第18話 契約書は婚姻届
「こんにちは……」

朋香が病室に入ると、万理奈はぼーっと宙を見ていた。

「誰……?」

のろのろと万理奈の視線が朋香の方に向き、かくんと首が横に倒れる。

「えっと。
……尚一郎さんの、……妻……の朋香、です」

おそるおそる口にすると、みるみるうちに万理奈の顔色が変わっていく。

「……尚一郎?
……ダメ」

「ダメ、尚一郎。
ダメ、ダメ……」

自分の肩を抱いて譫言のように繰り返しながらがたがたと震える万理奈に、やはり無理だったのかと朋香は後悔しはじめていた。




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