契約書は婚姻届
あのときはむちゃくちゃな条件だと思ったがあとで、尚一郎が朋香に惚れてのことと聞かされると、少し嬉しくもあった。

それに、達之助から制裁を受けるのがわかっていながら、それでも尚一郎は自分と結婚したのだ。

そこまでしたのに、自分は幸せになる権利がないのだと簡単に朋香を手放す尚一郎に腹が立つ。

「あの!」

手を挙げた朋香に、全員の視線が集中した。

「こんな我が儘が許されるとは思いません。
それで、工場の今後が左右するんですから。
でも、和解の件、私の好きにさせてもらえないでしょうか」

シーンと静まりかえったあと、一拍置いてみんな我に返ったのか、ざわざわとし出す。
そのなかで代表するかのように明夫が手を挙げた。

「朋香はどうしたいんだ?」

「それは……」

朋香の次の言葉を待って全員がごくりとつばを飲み込む。
一度深呼吸すると、朋香は改めて口を開いた。
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