契約書は婚姻届
家を途絶えさせるなど、達之助にしてみれば屈辱的なことだろう。
あんなに尚一郎を嫌がりながらも、跡取りには拘っていた。
押部家の歴史など、家自慢の本だってあったくらいだ。

それが、途絶えるなどと。

だからこそこれは、尚一郎の復讐なのだ。

「それで。
お願い、でしたか。
朋香さんにまだ、お義父さんなどと呼んでもらえ、頼ってもらえるなんて嬉しいことです。
なんだって聞きましょう」

「これにサインをもらいたいんです」

用意してきた婚姻届を出すと、尚恭の顔色が一瞬、険しくなった。

「これは……。
まさか、夫の欄に、ではないですよね」

悪戯っぽく笑った尚恭に、一気に頬へ熱が上がっていく。

「……いえ。
保証人の欄にお願いします」
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