契約書は婚姻届
「いいのですか、本当に?
当主のくびきから解放されたとはいえ、会社の現状は理解しているでしょう?
きっと、つらいことばかりですよ」

「わかってます。
それでも私は、尚一郎さんと一緒にいたいんです」

力強い朋香の声にペンを取ると、尚恭はサインしていく。
終わると、朋香に渡してくれた。

「……私はね。
本当は、尚一郎に修羅の道を歩ませてしまったのを後悔していたのです」

静かに話す尚恭の声が、穏やかな午後の室内に染みていく。

「だからこそ、朋香さんと結婚して、幸せそうな尚一郎が嬉しかった。
朋香さんを守るために当主に対して毅然とした態度を取る尚一郎に、復讐などやめてもいいと思っていた」

ずっ、カップを持って尚一郎がコーヒーを飲む音が妙に大きく響いた。

「朋香さんと別れ、感情を捨てた尚一郎に胸が裂ける思いでした。
……自分がそう、仕向けたのにね。
だからこそ、朋香さん」
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