契約書は婚姻届
顔を上げた尚恭が、眼鏡の奥から真っ直ぐに見つめてくる。

「どうか尚一郎を、よろしくお願いします」

「はい。
絶対に尚一郎さんを、幸せにして見せます」

ぎゅっと朋香の手を握る尚恭の手を、力強く握り返した。

尚恭はすべてが片付くとカーテの元に旅立った。
朋香に尚一郎を託して肩の荷が下り、最愛の女性と一緒に暮らす気になったらしい。



書類を確認する尚一郎の手は震えていた。
けれど、目を通し終えると何事もなかったかのようにテーブルの上に戻す。

「僕と二度と関わらないことを条件に、慰謝料を渡したはずだ」

「契約不履行ですよね、わかってます。
一生かかってでも働いてお返ししますから」

丸尾に尚一郎と交わした書類を見てもらうと、慰謝料は全額、尚一郎に返済しなければならないだろうと云われた。
きっと、自分が一生かかって働いたって返せないだろう。
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