契約書は婚姻届
「まさか、こんな馬鹿げた条件を出してくるとは思いませんでした。
このまま裁判を続けたければご自由にどうぞ。
それでは」

立ち上がった尚一郎を見上げるとレンズ越しに目があった。
碧い瞳が一瞬、揺らいだ瞬間を朋香は見逃さなかった。

……大丈夫。
尚一郎さんはいまだって、私を愛してくれてる。

「万理奈さんに会ってきました」

「……それがどうした?」

朋香の声に振り返った尚一郎は平静を装っていたが、その声は僅かに震えていた。

「尚一郎さんは幸せかって聞かれました」

「万理奈は僕の不幸を願っているからね。
きっと、いまの僕に喜んでいただろ?」

右の頬だけをつり上げて皮肉って笑う尚一郎に、ぶんぶんと力強く首を横に振る。

「違います。
万理奈さんは尚一郎さんの幸せを願ってた。
どうして尚一郎さんに怯えていたかわかりますか?
自分と一緒にいると尚一郎さんが不幸になるからですよ。
尚一郎さんを不幸にするからって、怯えるほど避けてたんです」
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