契約書は婚姻届
「やっぱり朋香はとても、reizend(可愛い)」

尚一郎の顔が迫ってきて……ちゅっと唇にキスを落とされた。
離れると、嬉しそうにふふっと笑っている。

「……こほん」

小さな咳払いに、二人っきりではなかったことを思い出し、急に恥ずかしくなってくる。
ふと目をやると明夫は視線を泳がせていたし、丸尾と羽山はあらぬ方向を見ていた。
ただ、犬飼だけはにやにや笑っていたが。

「あー、では、我が社といたしましては、そちらからの和解を受け入れると云うことで」

少し赤い顔で、咳払いをした明夫が気まずそうに口を開く。

「はい、よろしくお願いします」

にっこりと笑う尚一郎は、熱い顔で黙ってしまった朋香と違い、平静になっていた。
いや、それどころかきらきらと星が飛んで絶好調になっている。

「……現金な奴」

ぼそりと呟かれた犬飼の言葉は尚一郎によって黙殺された。
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