契約書は婚姻届
ソファーに座った尚一郎が、朋香の方に向かって手を広げていた。
意味がわからなくて首を傾げると手を引っ張られ、次の瞬間、膝の上に座らされていた。

「えっ!?
やめてください!」

じたばたと暴れてみたって堪えてない。
それどころか尚一郎は喜んでいる気がする。

「朋香はやっぱり可愛いな」

「……!」

ちゅっ、額にふれた唇に尚一郎を睨むが、効果がないどころか、眼鏡の奥と視線が合うと、眩しそうに目を細める。
改めて近くで見ると、宝石みたいできれいな瞳だと思った。

「その、……押部社長のご家族は?」

暴れるのは無駄なようだし、疲れることはあまりしたくない。
仕方ないのであきらめることにして、気になっていたことを聞いてみる。

昨晩から尚一郎のほかは、野々村以外の人間とは会っていない。
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