契約書は婚姻届
これはなんの苦行なんだろうか?
好きでもない、しかも年上で、さらには父親の取引先の社長を呼び捨てにしろなんて。

尚一郎は朋香の瞳をじっと見つめてくる。
勝ち気に睨んではいたものの、じわじわと涙が滲んできていた。
しばらく黙っていたかと思ったら、はぁっ、小さくため息をついてそっと親指で朋香の目尻の涙を拭う。

「今はそれで勘弁してあげるよ」

ちゅっ、瞼にふれる唇。
離れると困ったように笑っていた。

「ここに住んでいるのは僕と使用人だけなんだ。
あ、昨日から朋香もだけど」

朋香も、そう云うとき、尚一郎は心底嬉しそうな顔をした。

そっと手が髪にふれ、びくりと身体を揺らしてしまう。
そんな朋香に尚一郎はおかしそうに笑っていた。

「CEOもCOOも本邸。
あ、挨拶とか気にしなくていいよ。
朋香と結婚したことは報告してるし、用があればあっちから呼び出しがくるはずだから。
……第一、僕は呼び出されないとあそこには入れないし」
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