契約書は婚姻届
「あー、はいはい。
おふたりでお幸せにねー」

「待て、話はまだ」

亮平はまだなにか云いたげだが、つまらない云い訳をこれ以上聞く気もなくて、無視して店を出る。

翌朝、出社と同時に、上司に退職願を出した。
亮平にも桃子にも、顔を合わせるのが嫌になるほど、嫌気が差していたから。

同僚は亮平が悪いんだから朋香が辞めることはないと止めてくれたが、聞かなかった。

考えなしで辞めたことは後悔しないでもないが、あのままふたりと同じ空気を吸っているのはやはり自分には我慢できなかったので、これでよかったのだと思う。

すぐに就職活動は始めたが、なかなか見つからない。
三ヶ月ほど過ごした頃、父親がとうとう痺れを切らした。

「おまえ、仕事は決まらないのか」

「あー、うん」

少しずつ減っていく貯金に焦りも出始めている。
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