契約書は婚姻届
結納省略でさえ疑問だったのに、挙式もふたりだけでしようと云っていたこと。

朋香に嫌な思いをさせたくない……というのはさすがに、これだけの身分差があれば確かにいろいろ知らなきゃいけないことだと思うが。

もしかして尚一郎は家族とうまくいってないのだろうか。

そんな考えが浮かんでくる。

朋香が尚一郎について知っているのは、十歳年上の三十六歳だということ。
ドイツ人ハーフだということ。
押部グループの跡取りだということ。

それくらい。

押部グループについても、日本屈指のメディカルグループで、医療機器関係から製薬、はては病院経営までやっていることくらいしか知らない。

よく考えると知らないことだらけなのだ。

「奥様。
夕食の時間でございます」

「あっ、はい!」
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