契約書は婚姻届
グーグー寝とかないでおさらいしておけばよかった。

しかし、いまさら後悔したって遅い。

緊張でがちがちになってしまった朋香に気づいているのか、尚一郎が小さく、くすりと笑った。

「マナーなんか気にしなくていいよ」

「……はい」

恥ずかしすぎて俯いてしまった朋香をよそに、食前酒のシャンパンが注がれる。
少しでも気持ちを落ち着けようと、ぱちぱちと泡のはじける黄金色のそれを朋香は一口飲んだ。

「……おいしい」

「それはよかった」

口当たりのいいシャンパンに、少し緊張がほぐれた気がした。
そのおかげで、後は普通に食事ができた。

「朋香はおいしそうに食べるね」

「そうですか?」

にっこりと尚一郎の、眼鏡の奥の目が細くなる。
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