契約書は婚姻届
こんなことならあんなつまらないことで辞めなきゃよかった、そんな後悔があたまを掠める。

「それなら俺の秘書でもしろ」

「は?」

わけがわからなくてまじまじと父親の顔を見ると、苦笑いされた。

「おまえ、秘書検定二級だっけ?
持ってただろ。
小遣い程度には給料も出してやる」

「あー」

きっと、父なりに気を使ってくれてるんだと思う。
亮平とはそろそろ結婚とか考えていて、家族に紹介していた。
さらには仕事が決まらないことへの焦り。
素直に口には出さないが、父の気持ちが嬉しかった。

「わかったー」

それ以来、朋香は父親で若園製作所社長の、明夫の秘書のまねごとをしているのだ。
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