契約書は婚姻届
「業者ってなんのですか?」

どこか、リフォームでもするのだろうか。

朋香がここで暮らすにあたって、一日であの部屋をリフォームして家具を揃えたと知ったときは、目眩がしたものだ。

「仕立屋とか宝石商とか。
朋香は僕の選んだ服が、気に入らないみたいだからね」

「……」

にっこりと笑われて、手にしていたパンを置いてしまった。

……怒ってる。
怒ってる、よね。

衣装部屋の、尚一郎が準備した服にはなにひとつ手をつけていない。
それに手をつけるのは尚一郎に“買われた”ことを認めるようで、朋香の小さな抵抗だった。

「買っていただいても私は着る気がないので」

「僕は朋香を可愛がりたいだけなんだけど、……ダメかい?」

……うっ。
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