契約書は婚姻届
「ああ、そのお話ですか。
どこでお聞きになったのかは知りませんが。
確かに現在、他社の商品も検討中です」

「はあ、やはり」

噂が本当だとわかり、がっくりと明夫の肩が落ちる。
が、川澄は芝居がかった動作で組んだ足をほどくと、まるで内緒話でもするかのようにぐっと明夫の方へ身を乗り出してきた。

「ですが」

「ですが?」

じっと明夫の顔を見つめる川澄に、明夫ののどがごくりと音を立てた。

「私が聞いた限りでは、どうもあちらのものは若園さんのところとは比べものにならないほど、お粗末なものらしいのです。
なので、万に一つも変更はないかと」

「そ、そうですか」

顔を離し、大仰に頷いて微笑む川澄に、明夫もほっと安堵の笑みを浮かべた。

けれど、そんな川澄の表情に朋香は胡散臭さを感じていた。
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