契約書は婚姻届
さらには鍋。
節操がないといえばそうだが、旅館の料理といえばこんなものだ。

もちろん箸だが、尚一郎はきれいな箸使いで食べている。
いまは胡座をかいているが、本邸では正座をしていた。
外国人は正座が苦手だと聞いたことがあるし、きっと並々ならぬ努力をしたのだろう。

「しかし、あの人たちも意地悪だよね。
わざわざ懐石にしてくるなんて」

「それって……?」

意味がわからなくて首を傾げてしまう。

尚一郎に嫌がらせをしようとしたのならば、無駄じゃないかと思えるからだ。

「朋香に恥をかかせようとしたんだよ。
たとえば、まるまる一匹の焼き魚が出てきたら、朋香は正しいマナーで食べられるかい?」

「……うっ」

改めて問われると困る。
日本料理の正しいマナーなんて、よく考えたら洋食以上に知らない。
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