契約書は婚姻届
……だから。
あの顔には弱いんだって。

「今日だけですよ」

仕方なく朋香は尚一郎の隣に滑り込む。
途端に後ろからぎゅーっと尚一郎に抱きしめられた。

「なにもしないって云いませんでしたか?」

「なにもしないよ?
これ以上のことはね」

ちゅっ、ちゅっ、つむじに、うなじに、尚一郎が口付けを落としてくる。
云い返そうと口を開きかけた朋香だったが、はぁっ、小さくため息をついてやめた。
きっと云ったとこでやめてくれないし、それに。

祖父と父をCEO、COOと呼んでいた理由もわかった。

酷く疎まれていることも、父親をよく思ってないことも。

どうして自分なのかは誤魔化されてわからなかったが、きっと、淋しい尚一郎が欲しかった存在。

自分のために怒ってくれたことも嬉しかった。
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