都会人の付き合い方
「えーと…後は全部お母さんたちがやっておくから、子供たちは遊んでてねー」
僕のお母さんはそう言い残して、麻那美の両親と田んぼの向こう側へ歩き出す。

「それじゃ…行こうか」
「うん」

そんな大人達とは逆方向に、僕らは歩き出す。
大人達の世界の逆さ向きに、僕と麻那美だけの世界が廻り出す。
観光地に置き去りにされた誰かの忘れ物のような、ずっと昔からあった2人だけの世界。

その世界の中心で、僕らは語り合う。
と言っても…僕が一方的に話すのを麻那美がひたすらに聞いているだけだが。


話すことは、数少ない情報源である民放テレビ局の番組と、お父さんが読んでいる朝刊から得られた情報について思った感想など。

田舎暮しをしている僕達にとってテレビと言う家電製品は軽トラックと並ぶ必需品。
そんな代物の家電は麻那美のリビングにも据え置かれているので、麻那美も同じような情報を得ているはずなのだが…。

「…うん」
「へー…」
「アハハっ、そうなの?」

何も知らないのか、あるいは話の調子を合わせてくれているのか、適切なタイミングで挨拶をつく。
どちらなのかは、僕には分からない。だが、それほど麻那美が「聞き上手」ということだけが、しみじみと思わされる。

今思えば、「聞き上手」という言葉は、麻那美の為にあるのではないだろうか。
いや、だからと言って僕が自分で「話し上手」だとは思わないのだが…。
とにかく、麻那美は「聞き上手」と呼ばれるのに相応しいくらいに、大人しかった。

基本的には「うん」としか言わず(相槌をうつ時はもう少し言葉のレパートリーが増える)、何かブラックジョークを言えば涙ぐんでしまうような子で、なかなか自分から何か行動を起こそうとはしない子だった。
たまに麻那美の方から僕の家にやって来て遊ぶこともあるが、それでも僕から誘う頻度の方が多かった。
遊びに行くと言っても、無論ゲームセンターのような娯楽施設は無く、人工的な公園などといったものも無い。
何せ山や森が天然自然の公園みたいに思われている節もあるから、そういった思想を重んじ、公園建設の計画も頓挫してしまうか…そもそもそんな計画を誰も思いつかないのか…。
子供の僕達には分からない。

だから、互いの家で、まだ整備されてない畑で、近所の川で…色々な所で時間を楽しく消費した。

暗くなったら僕も麻那美も自分の家に帰るのだが、すぐに会える。
家族ぐるみの付き合いをしている者だから、頻繁に我が家のご飯を僕と麻那美の家族で囲む機会がある。
麻那美の家族が僕の家にやって来て、僕のお母さんの料理を食べに来るのだ。また逆に僕と両親で麻那美の家にお邪魔することもある。
僕のお父さんと麻那美のお父さんは中学生時代からの親友ということもあり、2人一緒にご飯を食べるとなると、必ずお酒が入り、宴会のようなムードになる。大人達がひたすら盛り上がるムードの中、アルコールの力など知らない僕と麻那美は部屋の隅でオセロをしたりしていた。


こんな関係は、小学校生活に慣れてからも続いた。
そして…今年もそう。
1人、欠けているが。
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