君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
「姫、ご無礼いたします」

 耳元で、甘く響く美声がしたかと思うと、ぐるん、と、私の視界が反転した。

「えええええええーーーーーっ」

 私は、長身の男性に抱きかかえられていた。

 何これ!? 何なの? なんか、つっこみどころ満載なんですけどっ!

 男性にこんな風に抱きかかえられる事も初めてなら、密着するのだって初めてだ。

 初対面の、弟だと名乗る、王子様然とした青年が、母の遺骨そのほか諸々をかかえ、伴走し、私は長身の、シェパードを思わせるような強面男性にお姫様抱っこをされた状態で、部屋を出た。

 そして、アパートの廊下、階段へ続く場所に、白い虎が……いた。

 パニーーーーーーっく!!!

 しかし、幸いにして、あらゆる意味で地に足がついていない私は、混乱しようとテンパろうと、荷物のように運ばれている。運ばれ方は、荷物というよりは、お姫様のようだけれど。

「しまった、出遅れたか、征治、僕がおとりになるから、姉さんを頼む」

 そう言うと、自称弟氏は、アパートの二階、渡り廊下の柵を蹴って飛び降りた。まさに、ひょいっ、という感じで、私が呆然とそれを見ていると、白い虎は、同様に飛び降り、自称弟氏を追っていく。

 白い虎が飛び降りた事で、階段への道が開いた。その隙に、強面氏は私を抱えたまま階段を降りていく。
 早い!めちゃくちゃ早い! 私は恐怖のあまり初対面の強面男性にすがりついてしまった。

 アパート近くに路駐されていた車までたどり着くと、強面氏は、停めてあった青いプリウスの後部座席に私をそっと座らせた。

「説明は、後でします、今は、逃げます」

 そう言って、強面氏は運転席に座り、プリウスを発進する準備をしている。

 白い虎を引きつけていた、自称弟氏が車までたどり着くと、助手席のドアを開けて、座る、ドアを閉じるやいなや、強面氏は車を発進させた。

 幸い、対向車も、無く、車はキビキビと走っていく。住宅地の、一時停止の多い場所を、どれだけ視界が広いのか、あぶなげなく進んでいく。

 恐ろしい事に、(いや、正しい事なのだが)道交法を守り、一時停止ではちゃんと止まっているのだけれど、不思議と追いかけてくる白い虎に追いつかれる事はなかった。
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