君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 礼門は、ため息をついた。

「参ったな、姉さん、物分りが良すぎるよ、そんな風に、簡単に人生を投げ出されると、僕、ちょっと不安になるな」

「どういう事?」

「姉さん、自分がいなくなっても誰も悲しまないって思ってない?」

 私は、はっとして礼門を見た。

「僕は嫌だよ、僕の存在を知らなかった姉さんと違って、僕はずっと姉さんの存在を知ってた。どんな人なんだろうと思っていたし、会いたいとも思ってた」

「そうだったの? でも、じゃあどうして今になって」

「……母さんが、会っちゃ駄目だって、言ってたんだよ」

「え? 礼門、母さんに会った事あったの?」

「あるよ、僕が大学に入った頃かな、会いに行ったんだ、……そこで、聞いた、姉さんに会わないように。父さんや、黄金川の家の事を告げないように」

「そんな……どうして……」

「母さんは、姉さんが『一人で』生きていく事に、ひどくこだわっているように見えた。身内がいる事で、心の中に隙ができる事を嫌がっているみたいだった」

 礼門に言われて、母に繰り返し言われた言葉を思い出していた。

『誰に頼らなくてもいいように、一人で何でもできるように』

「礼門は、聞いていない? 母さんは、結婚した事を、子供を産んだことを後悔していた?」

 私は、率直に礼門に聞いた。母さんが生きている頃には、思いもよらなかった事だけど、私は、あまりにも母から何も聞いていなかった事に気づきはじめていた。

「……どうかな、ただ、母さんがどうだったかはわからないけど、父さんはそんな風には思っていなかったよ、母さんと姉さんの存在を教えてくれたのは父さんだったし」

「若、奥様が家を出られた事を素子さんに教えてさしあげないのですか?」

 たまりかねて、征治さんが会話に参加してきた。征治さんは、母さんが家を出た理由を知っている?

 私が征治さんを見ると、礼門は一度私を見て、少し哀しそうな顔をして、言った。

「……そうだね、この話を姉さんに黙ったままでいるのはアンフェアだった。ありがとう、征治」

 そう言ってから、礼門は、今度は、母が私を連れて、母が離婚したいきさつについて説明してくれた。

 ものすごくざっくり言うと、祖母、父の母で、母にとって姑にあたる人と、母は折り合いが悪かったのだそうだ。
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