君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 だから、これは夢なんだと思う。

 リビングのソファに腰掛けて、私と征治さんが並んで座っている。

 ミルクに落としたブランデーの量が少し多すぎたのか、足下がふわふわして、頭がぼんやりしている。

 私は、征治さんに頭をもたれかけて、言った。

「……征治さん、恋人はいるんですか?」

 舌が上手くまわらなくて、『こいびろ』とか言ってしまったけれど、征治さんは気にしていないようだった。

「いませんよ」

 征治さんは、ブランデーグラスをもてあそびながら答えた。私が酔っているせいで、征治さんの顔がいまひとつよく見えない。声は、あまり感情がのっていないように聞こえた。

「……どうして、そんな事を聞くんですか?」

「もし、いないなら、私、立候補しようかな……って」

 現実には言えないような事も言えてしまうのだ、これは、夢なのだから。

「なんて、すみません、私なんか、ダメですよね、忘れて下さい」

 あわてて取り消す、そんな、取り消しちゃ、ダメなのに……。

「どうして、ダメだって、思うんですか?」

「私なんて、化粧気もあまり無いですし、……それこそ、礼門の方がかわいいんじゃないかって」

 あせって、我ながら支離滅裂な事を言っている。

「そんな事ないですよ、素子さんは、魅力的な女性です」

 もたれていた頭を起こすと、すぐ近くに征治さんの顔があった。

「私は……いえ、俺は、貴女を、ずっと見てきました、子供の頃から、成長する貴女を」

 征治さんの瞳は真剣そのもので、まっすぐに見つめられると、視線を外すことができなかった。

「俺の事、好ましく思ってくれてるって、とってもいいんですか?」

 私も、征治さんをまっすぐに見つめた。少し顔が赤い。熱に浮かされるような、瞳を、見つめ返すと、

「……そんな瞳で見られたら、俺は……」

 征治さんの唇が、私の唇に重なった。

 すごくドキドキしてるし、緊張もしているけど、イヤでは無かった。多分、私は、ずっと、征治さんに、触れて欲しいと思っていたんだ。
 ブランデーの味が残る、少し苦いキスだった。

 あー、これ、ファーストキスってやつなのかなー。ぼんやりした頭でそんな事を考えていた。
 自分が、こんな風に誰かとキスをするなんて想像もしていなかった。
 さすが夢だ。しかも感触がやけにリアルだ。
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