君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
「私は、一人で行かないといけないんです。……必ず、戻ってきます、守護聖獣の主になって、あなたと同じになるために、……戻ってきたら、私、征治さんに言いたいことがあるんです、だから、待っていて下さい」

 涙を、がまんして、私は言った。

「素子さん!」

 走って、入場券を入れて、改札を通る。征治さんが、後を追ってくるのがわかった。

 けれど、私はそんな征治さんから逃げるように走った。

 違和感には、すぐに気がついた。

 改札を抜けた先には、誰も居ない。

 無人の構内を駆け抜け、階段でホームへ昇ると、ドレミファインバーターの音がして、通過いていく快速列車が、ホームドアの向こうを走り去って行った。

 列車が通り過ぎた、反対のホームに、征治さんと顔も見たことの無い女性が立っていた。

 私の心臓が、一瞬締め付けられるように痛んだ。

 私が、見たくないと思っていた未来がそこにあった。

 見知らぬ女性に微笑みかける征治さん。

 でも、これは違う。だって、征治さんは、さっき改札に居た。だから、今向かいのホームにいるあの人は、征治さんでは無い。

 白虎って、けっこうやる事がえげつない……。

「白虎! あなた、白虎でしょ? あんた私をどうしたいの? 食べたいの? 自由になりたいの?」

 征治さんと女の人は姿を歪ませ、別のものに姿を変えた。
 次に、私の前に現れたのは、……母だった。

 向かいのホームにいたはずの白虎は、線路を飛び越えて私のいるホームへやって来た。

 目の前に、母が立っている。

「お母……さん?」

 近くで見ると、先日まで病床で、やせ衰えた母とは違い、私の、幼い頃の記憶の中の母だった。
 もしかしたら、もっと若いかもしれない。
 そうして見ると、やはり礼門は母に似ている。
 茶色がかった、やわらかそうな髪を肩にたらし、仕立てのよいワンピースを着ている。見覚えの無い服。では、これは、私の記憶を写しとったものではないのかもしれない。

「素子……」

 そう言って、私の名前を呼ぶ声は、確かに母の声だった。
 征治さんと相対した時とは、また違った痛みが、胸を苛む。

 今、目の前にいる母は、姿こそ、母そのものだが、多分母では無いはずなのだ。
 だって母は死んだのだから。荼毘に付されて、遺骨は今、礼門の元にあるのだから。
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