君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
言いたい、けれど……
 母が、家を出たのは、『このせい』では無いだろうな、と、一瞬考えたりもしたけれど、母はそういう『形』にこだわる人では無かったな、と、思い返して、もう一度考えてみたりもした。

 そうして、そんな事ばかり考えていたので、私は、征治さんにした約束を果たせないままでいた事に気がついた。

「姉さん、疲れてるだろうし、話は明日にしようか?」

 駐車場で車を降りて、エレベーターへ向かう途中、礼門が言った。

「ううん、私なら大丈夫」

「あ、僕、ちょっと仕事が残ってたんだよね」

「わかった、じゃあ、夕食の時に」

 私は、少し気持ちが昂ぶっているのかもいれないな。

 そんな事を考えながら、マンションの部屋へ戻ると、礼門は自分の部屋へ戻り、私と征治さんは同じ部屋へ戻った。

 バタン、と、玄関の扉を閉じると、緊張の糸が解けたのか、私は気が抜けてしまい、ソファに身を沈めた。
 手洗いと、うがい、しなくちゃ、と、ぼーっとしながら、一度腰を降ろしたら立ち上がれなくなっていまった。

「……なんか、疲れた」

 ぽつりと言うと、少しして、征治さんがお茶を出してくれた。テーブルにお茶を置くと、征治さんはその場から立ち去らずに、ソファにかけた私の足元の床に直接座った。

「あ! すみません、私ったら、自分ばっかり、征治さんだってお疲れなのに」

「私の事はいいんです、お気になさらず」

 征治さんが、優しそうに見上げる。

 なんだか、こうして、ソファに座っていると、征治さんの出てきた夢を思い出してしまって、私は赤くなった。

 征治さんは、その場を動かなかった。

「あ……あのっ」

 立ち上がろうとした私の手を、征治さんがとった。

「素子さん、私に、話があるのでは」

 確かに、そう、言いました。告白、するつもりでした。

 けれど、今、この状況ではっ!

 は、恥ずかしいっ!

 ソファに座り、少し腰を引き気味の私の手をとって、征治さんは今にも手の甲にキスをしそうなほどに、顔を近づけている。

 ちゅ と、征治さんの唇が、私の手の甲に触れた。

「だ……ダメです、私、まだ、手、洗ってなくてっ!」

 私は征治さんの手を振りほどき、洗面所へ逃げた。

 あの時は、何でもできるんじゃないかと思っていた。

 もしかしたら、命を落とすかもしれないという恐怖がそうさせたのか。
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