君はガーディアン ―敬語男子と♪ドキドキ同居生活―
 命永らえた今となっては、恥ずかしさが先に立ってしまう。

 手を洗わないといけないのに、征治さんの唇が触れた部分が熱くて、すぐに水にさらす気になれなかった。征治さんの唇が触れた部分に、自分の唇を重ねる。

 私は、期待してしまう。

 ……嫌だな。

 私、楽をしたくなっている。
 征治さんも、私に好意をもっていてくれているのかもしれないと思ったら、自分からではなくて、征治さんから言葉が欲しいと思っている。

 ついこの間まで、恋も知らなかったのに。

 私は、元からこんな人間だったのかな。

 征治さんへの好意を自覚する事で、変わっていくのが怖い。

 自分の中の優先度が変わる事。

 言葉にして、拒絶される事を恐れる事。

 たとえば、告白したとして、拒絶されたら。

 この、居心地のいい場所を、私は、失ってしまう。

 黙っていれば、このまま、黙っていれば。

 コンコンと洗面所のドアがノックされた。

 私は、ドアを開けられないように、扉の前に陣取った。

「素子さん? 大丈夫ですか?」

 表に、征治さんがいるのがわかる。

「はい、大丈夫です、……大丈夫、です、から」

 扉の向こうに、征治さんがいる、扉を開いて、思いを告げたら、征治さんは答えてくれるだろうか?

 思いを告げたいという欲求と、
 黙っていたいという打算が、
 ぐるぐると回る。

 玄関の方で、ガチャガチャと扉を開ける音がした。
 礼門が来たのだ。

「私は……夕食の用意がありますので」

 そう言って、征治さんがキッチンへ向かう足音が聞こえた。

 私は、洗面所の床に座り込んで、ため息をついた。
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