【長編】戦(イクサ)林羅山篇
木下長嘯子
 長嘯子は羅山の顔を見ると喜ん
で迎え入れた。
「やあ、誰かと思えばどこかでお
会いしたような懐かしさがあるが
誰でしたかな」
「分からないのに笑顔で迎え入れ
るとは無用心な。私です秀秋で
す。今は林羅山を名乗っていま
す。これからは羅山とお呼びくだ
さい」
「おうおう、そうそう、すっかり
変わってしもうて見違えた。じゃ
が殺気はせんかったぞ。そなたが
陽気な顔をして来たからわしもつ
られて笑ったのじゃ」
「とりあえずお元気そうでなによ
りです。ところで早速ですが兄上
は幕府の方とも親交を深めてい
らっしゃるご様子。清原秀賢殿を
ご存知ありませんか」
「何度かお目にかかったことはあ
るが、親しく話しをしたことはな
い」
「今度、その者らに私は学問の知
識を試されるのです。今、私の仮
の弟になっています信澄と清原殿
は何度か会っているので私のこと
も知っているはずなのですが最近
はなかなか会えず、どのような問
答をされるのか聞き出せないので
す。そこで兄上にそれとなく聞き
出していただきたいのです」
「ふん。やってみよう。また一人
友が増えるな」
「私の羅山の名を出せば何を聞き
たいのか察しはつくと思います。
よろしくお願いいたします。それ
と、福を覚えておいでですか」
「おお、覚えておるというより
会った。秀忠殿のお子の乳母に
なっておるらしいな」
「そうですか。また会う機会があ
りましたら、羅山から稲葉殿らは
達者でやっていると聞いたとお伝
えください」
「あい分かった」
「兄上にはこれからもご面倒をお
かけしますがよろしくお願いいた
します」
「なにを他人行儀な。わしがこう
して生き永らえているのも秀…、
いや羅山のおかげじゃ」
 二人はしばらく子供の頃の話を
すると別れた。
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