【長編】戦(イクサ)林羅山篇
四人だけの密談
 再び戦になることが誰の目にも
明らかになった頃、秀頼は真田幸
村と毛利勝永を密かに呼んだ。そ
の居場所には淀もいたが聞き役に
徹して最後の采配を秀頼に任せ、
四人だけの密談は始まった。
「幸村殿、勝永殿、城はご覧の有
様。もはや戦にならないことはお
分かりのことと思う。ご両人には
豊臣家のために過分のお働きをし
ていただいた。この秀頼にはその
恩に報いる術がない。かといって
手ぶらで徳川に下ることもできま
い。どうかこの秀頼の首と母上の
首を討ち取り、ここに残した金子
と一緒に徳川へ下ってはもらえん
だろうか。それでご両人の助命に
はなろう」
 幸村は怒りとも悲しみともつか
ない表情で応えた。
「お恐れながら申し上げます。こ
たびの戦、最初から勝ち目はござ
いませんでした。それでもあえて
我らを集め、戦をしたのは何故で
すか。この期におよんで徳川に助
命を願うなど、天下の物笑いにな
れとおっしゃられるのか」
 それに勝永も付け加えるように
言った。
「この勝永も幸村殿と同じ。その
ような浅ましい考えでこの地に留
まっているのではございません。
まだ我らを信用いただけないので
すか」
「いや、ここに集まった方々の忠
義を疑う気持ちは微塵もない。戦
を甘く見ていたわけでもない。こ
れは豊臣家の、天下統一を果たし
た亡き太閤の子の意地じゃ。その
意地はとおした。それがご両人の
命を賭してのお働きを見て悟った
ことじゃ。これ以上の戦は我欲で
あり、多くの民を苦しめるだけで
はないかと思ったのじゃ」
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