【長編】戦（イクサ）林羅山篇

安居神社

　家康は土にまみれた百姓のよう
になり、本陣の混乱から抜ける
と、短刀を手にして切腹する場所
を探していた。しかし、幸村と勝
永は家康を見つけることができ
ず、イライラしていた。
　こうしている間にも徳川勢が盛
り返してきていた。
　幸村が気づいた時には茶臼山が
徳川勢に攻めとられ、包囲される
のを避けるため、止むを得ず撤退
を開始した。
　そこに徳川勢の各部隊に混じっ
て忠昌の部隊も駆けつけ、正成は
幸村の部隊が弱気になっているの
を見透かし、散々に攻め立て二十
七人を討ち取り、忠昌も二人を討
ち取った。
　幸村の部隊が崩壊していくのを
見た勝永の部隊も藤堂高虎、井伊
直孝の部隊に反撃されるようにな
り撤退を始めた。
　幸村は命からがら天王寺の辺り
に逃げ延びた。生き残った幸村の
部隊の兵卒も追いつき近くの安居
神社に向かい、境内で傷の手当て
をしていた。そこを徳川勢が追い
討ちをかけ、幸村は絶命した。
　勝永の部隊は退却していた途中
で追って来た高虎の部隊を反撃す
る余裕を見せたが、流れを変える
ことはできず、援軍に駆けつけた
豊臣勢の明石全登の部隊に助けら
れて大坂城に入った。
　秀忠の本陣で秀忠の動きを封じ
ていた大野治房の部隊も幸村の部
隊が退却したのを知るとじりじり
と後退し始め、大坂城に戻った。
　正成は忠昌を死なせずにすんだ
ことにホッとして力が抜けた。そ
んなことにはおかまいなしの忠昌
は初陣を華々しく飾ったことに興
奮し、善戦した兵らをねぎらって
いた。
　態勢を立て直した徳川勢は次第
に大坂城に集結していった。