【長編】戦(イクサ)林羅山篇
爆発、炎上
 糒倉の中には大野治長と母の大
蔵卿局、毛利勝永、勝家の親子、
真田幸昌と残った女らが淀の着物
や秀頼の甲冑などを身につけ、大
量の火薬に囲まれて息をひそめて
いた。
 外で徳川勢の将兵がざわついて
いるのが聞こえると治長がニヤリ
と笑って言った。
「どうやらうまくいったようだ。
ここを取り囲んでいる」
 勝永も安堵して言った。
「いよいよ最後の大仕事ですな」
「しかし攻撃してこないところを
みると、まだ千の方様の説得が続
いているのかもしれん」
「では今宵一晩、待ちますか」
「気を抜かず待つしかありません
な」
 それを聞いて幸昌がつぶやくよ
うに言った。
「早く父上のもとに参りたい」
 横にいた勝家がなだめるように
言った。
「そのようなことを言うては、そ
なたの父上様が怒りましょう。我
が子なら家康、秀忠の首を取って
参れ、とな」
「そう言うかもな。無茶をやって
見せる父上であった」
 勝家が幸昌の耳元でささやい
た。
「お互い、良い父上のもとに生ま
れましたね」
 二人はくすくすと笑った。
 次の日。
 千の願いも空しく、家康は糒倉
へ攻撃の準備を命じた。その直
後、糒倉は爆発、炎上して崩れ落
ちた。
 すぐに火は消されて淀と秀頼の
遺骸を捜したが、散らばった複数
の遺骸の損傷が激しく特定はでき
なかった。
< 121 / 259 >

この作品をシェア

pagetop