【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天海の正体
「そのような噂もあるようじゃ
な」
「孔子は大柄な体格をされていた
と聞きます。天海殿もこの国の者
とは思えない大柄な体格。それに
陰陽の知識は、この国に伝わった
書物で学んだものとは違い、経験
から会得したもののように思われ
ます。異常な長生きはもしや孔子
から相伝の術を用いているのか、
あるいは末裔かもしれません」
「どちらにしても大御所様の遺言
まで変えてしまうとは。なんとし
ても政務から遠ざけねば」
「それなのです。私は上様が世継
ぎのことまで変えてしまうのでは
ないかと心配なのです」
「それはわしも困る。竹千代様は
おとなしく人の話をよくお聞きに
なる。それに比べ、国松様はやん
ちゃで我がままなところがある。
大御所様が決められたとおり、次
期将軍には竹千代様になっていた
だかないと」
「私は上様と天海殿を疎遠にしま
すので、崇伝殿は政務をおおいに
励んでいただきたく、お願い申し
上げます」
「もちろんじゃ。よろしく頼む
ぞ」
 東舟は崇伝と別れると秀忠のも
とに向かった。
「東舟、わしの腹は決まった。こ
れから帝に天下分け目の決戦を挑
むぞ」
「戦にございますか」
「戦というても人は死なん。帝を
わしの懐に取り込むのじゃ」
「ではいよいよ姫様を……」
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