【長編】戦(イクサ)林羅山篇
柳生宗矩
 家光は江戸城、西の丸の庭で、
兵法師範となった柳生宗矩に剣術
の手ほどきを受けていた。
 廊下から道春が来ているのに気
づくと家光は廊下に腰かけて笑顔
を見せた。
「道春先生、お久しぶりですね」
 道春は家光の側に正座して一礼
した。
「若様、少々病んでいまして、お
目にかかることができませんでし
た。元服、おめでとうございま
す。ご挨拶が遅れて申し訳ありま
せん」
「そうだったのですか。でも元気
そうで、なによりです。ああ、こ
ちらは私に剣術などを指南してい
ただくことになった柳生宗矩先生
です」
「お初にお目にかかります、柳生
宗矩です。道春先生には兄が大変
お世話になりました」
「道春です。お世話になったのは
こちらの方です。宗章殿はお元気
ですか」
「それが、亡くなってございま
す」
 宗章は小早川秀秋の側に常にあ
り、関ヶ原の合戦では警護にあ
たった。小早川家がお家断絶に
なった翌年、米子藩に迎えられた
が、藩主の中村一忠が家老の横田
村詮を誅殺する事件に巻き込ま
れ、謀反を起した横田家側に加
わって奮戦するも討ち死にした。
「そうでしたか」
「道春先生は宗矩先生のお兄様を
ご存知だったのですか」
「はい。武勇に優れた好漢でし
た」
「そうでしたか。宗矩先生はご兄
弟そろってすごかったのですね」
「私より兄の方が数段上にござい
ました」
 三人がしんみりしているところ
に福が現れた。
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