【長編】戦(イクサ)林羅山篇
最後の問い
 一瞬静まり返った謁見の間。
 得意げに笑みを浮かべる家康に
羅山はゆっくりと答えはじめた。
「沢蘭にございます。屈原は楚の
懐王、襄王に仕えた長官で疲弊し
た国を復興しようと努力しました
が反対派の企みにより江南に左遷
され、その後、身を投じて死にま
した。その屈原が愛でたのは沢に
咲く素朴な蘭にございます」
 家康は屈原と小早川秀秋の後世
をだぶらせて問うた意図を羅山に
見抜かれたことに感心し、一息つ
いた。
「お三方どうじゃ。羅山殿は若い
が優れた博識がある。認めてもよ
かろう」
 三人は深くうなずき同意した。
 このことは城内はもとより、世
間にも知れ渡った。
< 16 / 259 >

この作品をシェア

pagetop