【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天上人
 秀忠は十月になっても和子が子
を産む様子がないので江戸に戻る
ことにした。この時、道春らにも
内密にお江与の死が知らされた。
 道春は江戸に戻る秀忠を見送
り、一部の残った家臣らと雑務を
していた。そうしている十一月十
三日に和子が待望の男子を産ん
だ。このことはすぐに秀忠に知ら
され、お江与の死で落ち込んでい
た秀忠を奮い立たせた。
「ようやった和子。これでわしは
帝の祖父。父上さえも成し遂げら
れなかった天上人になったぞ」

 道春が江戸に戻り、年が明けた
寛永四年(一六二七年)にはお江
与の葬儀をそつなく執り行って秀
忠から信頼されるようになった家
光が本格的に幕政を取り仕切る下
地ができ、道春にも重要な政務に
かかわる機会が増えてきた。
< 179 / 259 >

この作品をシェア

pagetop