【長編】戦(イクサ)林羅山篇
紫衣事件
 家光に頭の痛い問題が起きた。
 後水尾天皇が禁中並公家諸法度
の朝廷が高徳の僧や尼に紫衣(紫
色の法衣、袈裟)を幕府の許しが
なく与えることを禁じていたのを
破り、僧侶、十数人に紫衣着用の
勅許を与えたのだ。
 天皇は和子が男子、高仁親王を
産んだことで将来、朝廷が徳川家
に乗っ取られることが確実にな
り、最後の抵抗に出た。これに対
して家光は京都所司代の板倉重宗
に法度違反の紫衣着用の勅許を無
効にするように命じた。すると今
度は沢庵宗彭、玉室宗珀、江月宗
玩などの高僧が天皇の行ってきた
慣例を守ろうと抗議文を幕府に出
してきた。
 キリシタンに続き、既存の宗教
界までも敵にまわしかねない問題
に家光は結論を急がず、慎重に対
処する姿勢をみせ、しばらく間を
おくことにした。
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